過敏性腸症候群とは
おなかの痛みや膨満感がある、お腹が鳴る、おならが度々出るなどのお腹の不快感、なかなか治らない便秘、突如として起こる下痢、下痢・便秘をくり返すといった排便異常が数カ月以上続く場合、を過敏性腸症候群が疑われます。腸に炎症がないこと、腫瘍がないこと、甲状腺ホルモン異常など内分泌系の病気がないことが確認できれば過敏性腸症候群の可能性が高まります。
腸などの消化管の働きは自律神経が制御しているため、ストレスや緊張によって腸の動きが激しくなったり、知覚過敏の状態になると、上のような症状が起こると言われています。
過敏性腸症候群の症状
下痢型、便秘型、便秘と下痢をくり返す交代型、便通異常は認めず膨満感などのお腹の不快症状を認める分類不能型4つに大別されます。それぞれで起こる症状や治療法に違いがあります。
下痢型
突如として強烈な腹痛と下痢の症状が起こりますが、排便すると症状は収まります。
緊張やストレスによって腹痛や下痢の症状が起こると言われており、1日に何度も同じような症状が起こる方もいらっしゃいます。
通勤中の電車内などでトイレに行けない不安から腹痛や下痢の症状が起こるなど、日常生活においても悪影響が及ぶことがあります。
便秘型
腸のけいれんなどの機能的な異常によって便の移動に支障をきたし、便秘につながるとされています。
トイレに行っても激しい腹痛を伴い、強くいきんでもウサギのようなコロコロした小さな便しか出ずにスッキリしない感じがあります。
ストレスを感じると便秘が悪化する傾向があります。
また、排便時に強くいきむことが当たり前になり、痔などのその他の大腸疾患が起こる恐れもあります。
交代型
便秘と下痢を繰り返し、強烈な腹痛も起こります。
分類不能型
腹部の膨満感、腹鳴、頻繁におならが出るといった症状が起こるとされています。
過敏性腸症候群の原因
明らかな原因はまだ、分かっていません。
腸の動きを制御する自律神経の異常が発症に関係しているとも考えられています。
脳と腸は自律神経でつながっていて、脳がストレスを感じると自律神経のバランスがくずれ、腸の動きが乱れて下痢や便秘など便通異常の症状が出ると考えられます。
痛みを感じやすい「知覚過敏」の状態となり、ちょっとした腸の刺激でも強い痛みや違和感を感じやすくなります。
食生活、ストレス、腸内細菌のバランス、遺伝なども関係していると考えられています。
過敏性腸症候群の診察
- 便が硬いか軟らかいかなど便の形状
- 排便の回数や頻度、詳しい症状
- どういうタイミングで症状が起こるか
- 予兆はあるか
- いつから症状が起こっているか
- どのくらいの期間症状が続いているか
- 症状は最初と比べて変わったか
- 日頃の生活習慣
- 今まで病気にかかったことがあるか(既往歴)
- 内服中のお薬
- ストレスの有無
その他のお困りごとなどを丁寧にお聞きします。
過敏性腸症候群の症状は別の病気とも似ていることが多く、重大な病気がかくれていないかしっかり調べる必要があります。
炎症や腫瘍、甲状腺機能亢進症などのホルモンの異常の有無などについても血液検査や大腸カメラ検査で詳しく確認します。
RomeIII基準
血液検査や大腸カメラ検査などで、炎症や腫瘍など、いわゆる器質的異常が無いことが分かりましたら、世界でスタンダードとなっているRome基準に則り診断します。
過去3か月間のうち月に3回以上、腹痛や腹部の違和感といった症状が継続的に起こっている場合、さらには以下の3項目のうち2つ以上に該当すると医師が認める場合、過敏性腸症候群と診断します。
- 排便すると症状がやわらぐ
- 症状に応じて排便の回数が変わる
- 症状に応じて便の状態が変わる
過敏性腸症候群の治療
症状に応じて適切な治療方法は異なります。
過敏性腸症候群はストレスによって症状が起こることが多く、その症状によって日常生活に支障をきたす方が数多くいます。
つらい症状を改善するためには
日頃からお悩みのことや、不安に思われストレスとなっていることを最初に解決していくことが大切となります。
お薬による治療に加え、生活習慣の改善、ストレス発散などご負担が少ない範囲で取り組まれることが症状の改善につながります。
最初からつらい症状を完全になくすことは、なかなか難しいこともありますが、根気よく治療に取り組むことで徐々に症状が軽くなるようお手伝いさせていただきます。
食生活の改善
栄養バランスが取れた食事を1日3回規則正しく、良く噛んで腹八分目くらいでとるようにしましょう。
特に毎朝、朝食を摂り、トイレに行く習慣は、症状改善にとても効果的です。
また夜食はひかえるようにしましょう。
脂肪の多い食事や多量のアルコールは、食物の消化や吸収を低下させるために、下痢をしやすくなります。
香辛料は、腸の動きをよくし過ぎて、おなかが痛くなったり、下痢をする原因になります。
カフェインをとり過ぎると、S状結腸や直腸といった肛門に近い大腸を刺激し、おなかの痛みをおこすことがあり、注意が必要です。
一般的に便秘に良いとされている食物繊維は、下痢型の方ではおなかの痛みや下痢の症状が起きる可能性がありますので、症状にあった適切な量があります。
小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい4種類の糖類が注目され、FODMAPと呼ばれています。
F:発酵性の糖質
O:オリゴ糖
D:二糖類(乳糖)
M:単糖類(果糖)
And
P:ポリオール(糖アルコール=キシリトールなど)
O~Pまでの糖類のどれかが、過敏性腸症候群の引き金となることがあります。
これら四つの糖類がたくさん含まれている食物を高FODMAP食と呼びます。
おなかの不調の原因がどれか、相性の悪い食品を見つけるために
1.高FODMAP食を2~4週間ひかえる。
(いわゆる低FODMAP食をとっていただく)
2.1.で制限した食品を1品ずつ試して、おなかの症状がでなければ、食べても問題ない食品と考えます。
このやり方でおなかの調子が悪くなる原因となる食物がわかるようになります。
全ての高FODMAP食が悪いわけではなく、それぞれ相性があり、原因をみつけることが大切です。
また、FODMAPを気にし過ぎてストレスにならないよう、ご注意ください。
まずは、胃腸に負担をかけない食生活が重要です。
生活習慣の改善
適度な有酸素運動を習慣化し、睡眠や休息もしっかり取ると良いでしょう。
また、スポーツや趣味の時間も確保することで、適度なストレス発散を心がけましょう。
さらに、入浴で心身のリラックスが期待できますので、なるべく毎日入浴すると良いでしょう。
喫煙や多量の飲酒も避けましょう。
食生活などの生活習慣は負担にならない範囲で改善できるようにしましょう。
薬物療法
過敏性腸症候群の治療に使われるお薬は、腸管の動きや機能(蠕動運動)を調整するものと、便やガス、水分量などの腸の内容物を調整するものに大別されます。
腸管の動きや機能を調整するお薬
- 消化管運動機能調整薬(セレキノン®):腸が正常な動き(蠕動運動)するように、腸と自律神経に作用するお薬です。
- 抗コリン薬(ブスコパン®、チアトン®、トランコロン®):腸が活発に動きすぎることによって生じる痛みをおさえるお薬です。
- セロトニン(5-HT3)受容体拮抗薬(イリボー®):ストレスがかかると、セロトニンというホルモンが脳から分泌されます。
セロトニンは腸の運動を活発にし、腸の中の水分の調整が乱れ、下痢の原因となります。
またセロトニンは腸の知覚過敏にも影響しています。
セロトニンの働きを抑えることで、下痢やお腹の不快感をおさえるお薬です。
腸の内容物を調整するお薬
- 高分子重合体(コロネル®、ポリフル®):大腸~小腸にかけて水分を吸収することで、便の中の水分量が適量になるよう調整するお薬です。
下痢型・便秘型ともに効果があります。 - 整腸剤(ビオフェルミン®、ミヤBM®):腸内細菌のバランスを整えるお薬です。
- 下剤
- 下痢止め(ロペミン®)
患者様それぞれの状態に応じて、お薬を使い分けます。
患者様に合わせた適切なお薬を内服していただくことで、市販薬では良くならなかった方でも改善が見込めることが多くなっています。
当院では再診時に患者様の現在の状態をしっかりと把握し、その時々で最適な処方ができるよう心掛けています。